第32章 約束
「かなり痛むぞ」
「……そう」
「熱も出る」
「だろうね」
「我慢し過ぎるな」
「わかった」
軽い返事と笑顔を崩さないアルコの髪に、ローは くしゃりと触れた。
「本当に わかってんのか」
「わかってるよ。痛かったら『痛い』って言う。ツラかったら『ツラい』って言う。それでいい?」
“主治医”の眼光の鋭さに負けて、アルコは小さくなって つけ加えた。
「 …ですか、“先生”」
「……ああ」
二人のどちらともの「納得いかない」といった視線が交わる。
しかしじゃあどうすればいいのか、という解決策は見当たらない。
(出来るだけローに頼らないようにするには)
(出来るだけアルコが おれを頼るには)
結局、どうすればいいかわからず、ローは黙ったまま自分で乱したアルコの髪を整えた。その手はそのままアルコのアゴを滑る。
いかにも いとおしげに触れるので、アルコは小さくなって目を閉じた。
『お前の想いには 応えられない』
『おれは“お前の医者”だからな』
こらえきれない性の衝動を、セックスをすることで発散した。それは他でもない理由。けっして愛のあふれる行為なんかでは ない。
『ローは医者だから』
『自分は患者だから』
そう言い聞かせているのに、彼のその手つきは柔らかく滑らかで、優しくて切ないので、つい すがりつきそうになる。
『やめて』と振りほどくこともできず
『愛して』と願うことも到底できない
小さく吐く息と共に目を開けると、ローの顔は間近に迫っていた。
「もう痛むか」
「……少しね」
嘘をついた。
視線を落としたまま小さく笑って嘘をついた。
『患者』としての特権を利用した。
治療の直後には痛みはない。それは広範囲を治療した今回も同じだった。それでも嘘をついたのは ────
ローはアルコの唇に“治療の仕上げ”を施した。
──── “これ”が欲しかったから
いや、嘘は ついていないか
『少し 痛む』から
この胸が