第32章 約束
──── 1週間後
パンクハザード島
研究所
R棟 最上階
ローはアルコの両脚の珀鉛を取り除く治療を行った。
それは今までのような部分的で表面的な治療ではなく、体内の珀鉛も一気に取り除く治療だった。
ローの説明では、珀鉛は身体に均等に散らばっているのではなく、アザのあるところや臓器の一部に かたよって存在している、ということだ。
比較的アザが少ない両脚は、それほど珀鉛が溜まっている訳ではないだろうというのがローの見立てだ。しかしそれは取り除いてみなければわからない。
免疫力を低下させるホルモン剤を点滴で投与し続ける。他の感染症を罹患(りかん)するリスクは高まるが、強すぎる自己免疫を下げることのメリットが上回るとローは判断したからだ。それに幸いにも この極寒の環境が、抵抗力の下がったアルコの身体を余計な常在菌から守るバリアとなっていた。
「わぁ! そんなに…?」
「嬉しそうに するな」
治療を終え、身体を起こしてベッドに座っているアルコは、珀鉛の入った小瓶を手中に ねだった。ローからそれを受け取り、部屋の明かりに かざして、白銀色の粉を目の前で振るう。
ずいぶんな量だった。
目算(もくさん)しただけでも、今まで数回に渡って取り除いた分の倍以上になった。
いつまでも嬉しそうにそれを眺めているアルコに、ローはあきれたように息を吐いた。
「注射、してくれないの?」
いつもなら治療後の患部には痛み止めの注射が施(ほどこ)される。それを待っていたのに、ローからは注射を打つ気配は感じられなかった。
「ああ…、点滴で入れる」
「そう」
事も無げに返事をするアルコに対して、ローは神妙な顔をして そばの椅子に座った。