第31章 arousal
ローはR棟の最上階までの階段を登りきったところで その異変に気づいた。
部屋の扉の前の床には、トレイに乗った食事が置いてある。
(モネか…? 余計なことを)
眉をひそめていぶかしんだ。アルコには部屋から出るなと言ってあるし、食料も十分部屋に準備してある。食事の差し入れは必要ないハズだ。そもそもそんな事を頼んだ覚えも、これまでそんな世話を焼かれた事もなかった。
「アルコ…?」
持っている鍵で解錠したが、扉が開かない。内側で何かで つっかえているようだった。
「ろ、…こ、ないで…」
「どうした…?!」
アルコの弱々しい声が聞こえた。能力を発動し、部屋の中の物と入れ替えて部屋に入る。
部屋の明かりは点いていなくとも、暗闇ではなかった。カーテンが開け放された窓から、研究所の外壁に設置された黄色味を帯びた外灯光が射している。入り口の扉を振り返ると本棚が倒され、書物が散らばっていた。皿やコップなどの食器類や医療機器も床に散乱し、部屋は足の踏み場もない程にぐちゃぐちゃだった。
ベッドの上のアルコは、焦点の定まらない目を見開き、歯を剥いて、全身で荒い呼吸をあげている。正気の状態ではないことは、明らかだ。
(何があった…? …自分で、縛ったのか?)
ベッドの柵に海楼石の手錠くぐらせ、両手を前で拘束していた。
「どうした、」
「ううぅぅ…! ぁああッ!!」
ローが近づくと髪を振り乱し、噛みつく勢いで吠えるようなうめき声をあげている。手錠を引き抜こうとしている手首には、痛々しい跡が刻まれていた。