第31章 arousal
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研究所
R棟 最上階
「グッ…、う、あ…、…はぁ、はっ」
アルコは身体の異変を感じて、うめき声をあげながら部屋の床を這っていた。
(なに、コレ…? こ、の衝動は…?!)
『何か』が欲しい
それが『何か』わからないけど
欲しい
欲しい 欲しい
欲しい 欲しい 欲しい
コンコンコン
扉がノックされた。
「ええっと…、誰かいるんだろ? 食事を持ってくように頼まれた。開けてくれ」
扉の向こうから、知らない男の声がした。
──── 食事…
── 男…
「う…、ぐ、あぁぁぁ…っ!!」
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モネは自室でゆったりとソファに翼を横たえ、その上に身を預けていた。
「彼女を目覚めさせる気付け薬に入れたのは、開発中のウィルス。無秩序に暴走する ─── 通称『欲望の種』」
今夜の吹雪はいっそう強く、寒風が窓を揺らし音をたてた。
*
アルコはその衝動に必死で抵抗した。
扉を開けてはいけない
扉を開けたら、きっと ─── 欲しい
欲しい
欲しい 欲しい
欲しい 欲しい 欲しい
…食べたい
「あぁぁぁッッ…!」
「おい…、あんた、大丈夫か?」
男が扉越しに そう声をかけたと同時に、ドカンと建物が揺れる程の大きな音がした。
アルコは本棚を扉の前に倒し、決して開けられないように塞いだ。
*
モネは皿の上の薄いビスケットを3枚まとめて つまみ上げた。昼間、アルコの部屋で“女同士”の話をしながら二人で食べたそれらを、トランプのカードのように器用に翼の中で広げる。
「まず起こるのは意識レベルの低下。理性的な思考は奪われ、その後に残るのは極度の渇望と飢餓感 ─── どんな生き物も最終的に行きつくところは同じ。生き物が持つ三大欲求……食欲、睡眠欲、そして性欲」
そう言いながら、3枚のビスケットを順に羽でなぞった。