第31章 arousal
それでも 明日には帰ってくるんだし
久しぶりに ちょっと弾こうかな
アルコは窓辺から離れ、竪琴を手にソファに座った。
『帰ったら、…聴かせてくれ』
アルコは弦を撫でて、ひとり微笑んだ。何かを求められることは、やはり嬉しい。たとえ、その関係に“希望”はなくても。
何がいいかな
やっぱりあの時の曲 ────
潜水艦で 私の ── 私達の故郷の街並みをイメージして作った曲
アルコはあの時のことを心から取り出して、大切に回想した。初めての治療の後、“健全なお礼”として弾いた曲。てっきり眠っていると思っていたローの目は射抜くようにしっかり開いていて、その後触れるだけのキスをされた。
あの頃には“希望”があった
私達の関係に
『彼のことが 好きになれるかもしれない』
『彼は私のことが 好きなのかもしれない』
そんな“先への希望”が
あの時は自覚することに対して、必死に抵抗していたけれど
身体の芯から込み上げてくる熱さとムズがゆさを、あきらめを込めた細い呼吸に逃がしてから、手首を振って指を動かす。最初の音とそれに繋げるコードを探して両手を構えた時、扉を叩く音がした。
アルコは息を飲んで振り返り、扉をみつめる。
「おはよう。目覚めているんでしょう?」
「…!?」
繰り返されたノックの音に続いて、再び声がかかった。
「開けてくれない?」
「えっ…と」
「お茶と…甘いビスケットを用意したわ。ねぇ、“女同士”で。いいでしょう?」