第31章 arousal
「3日で戻る」
ベッドに戻ったアルコに、ローは力強く言った。
今日から3日間、海軍本部へ『おつかい』に行くらしい。行き帰りの移動に1日ずつ、あいだの1日で用事を終わらせて帰ってくる、ローは出掛ける支度をしながらアルコにそう告げた。
「食事と運動は少しずつな」
「はーい、“先生”」
軽い口調は、身体だけでなく心もずいぶん元気になってきた証拠だ。皮肉の込められた、距離を置くようなアルコの言い方を聞いて、ローは逆に歩み寄るように言った。
「帰ったら、…聴かせてくれ」
ローは部屋の隅に置いてある竪琴に目配せをした。
「いや、今でも。弾けるよ」
「今はまだダメだ。こんな腕で…何言ってんだ」
ローはベッドに腰かけ、アルコの手首を持って腕を上げさせた。下から二の腕に指を滑らせて『すべすべ』される。アルコは顔を遠ざけて笑みを噛み殺すが、ローはニヤついた表情を隠さない。
「その触り方…」
「触診だろ」
(私の想いに応える気はないクセに)
そんな愛情を込めたような
まるで大切なものを扱うような
触り方をするなんて
「…エロ医者」
アルコの嫌味とため息まじりのつぶやきは、ローに鼻で笑って流された。
「絶対に部屋から出るなよ。扉も開けるな」
「わかってます、“先生”」
ローが立ちあがった後で、アルコはベッドのシーツを整えた。帽子をかぶり、刀を抱えて出ていくその背中に声をかける。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「…ああ。必ず3日で戻る」
ローが振り返ってくれたので、アルコは小さく手をかざした。ローはそれに、口もとを緩めてアゴで合図を返して出ていった。
アルコはひとりになった部屋で“白い窓”を いつまでも祈るように見つめていた。