第31章 arousal
無意識のままに口ずさんでいた。
その自分の行動に驚く間もなく、アルコがピクリと反応したような“気がした”
素早くモニターに目を滑らせる。
脈が
呼吸が
血圧が
上向きになっている“気がする”
──── いや
“気がする”なんてことでいいのか
医者のおれが
自嘲気味に笑って、冷静さを取り戻し、もう一度モニターを確認した。
「アルコ…、そろそろ起きろよ」
当たり前のように、お互いが必要なハズだ。そこにキスやセックスで意味や言葉を乗せなくても。
ローはアルコが眠りだしてから その日初めて彼女にキスをせず、シーザーから貰った論文や自分で集めた資料に再度 目を通そうと手元の明かりを点けた。
*
ローは逸(はや)る気持ちを抑えながら、段階的に室温と明かりを元に戻していく計画を立てた。
シーザーが調合した気付け薬を、少量ずつ点滴に流し込む。
慎重に、反応をみながら2日程かけてその作業を行った。
* *
白い世界
霧
──── 雪?
* * *
冷たい
けど 心地いい
深い深い 真っ白な世界から浮上したアルコは、ゆっくりと目を開けた。
浅く座るように上半身を少し傾けられて、身体をベッドに預けていた。
目を開けたアルコは、祈るように手を握るローと同じ目線にいた。
「…お、はよ」
その声はぎこちなく宙を漂った。
笑ったつもりだったが、顔の筋肉が上手く動かない。
それにローは一度大きく目を見開いてから、顔を伏せてしまった。
「……?」
アルコはローの顔を覗きこもうとするが、身体も思うように動かせない。アルコは、自分の手が うなだれたローによって濡らされている気がした。
「…おかえり」
「ただいま…」
二人は視線を合わさないまま どうにか絞り出した、といったようなギリギリの声で言葉をかわした。