第31章 arousal
いつもと同じ…、いや、日に日に膨れ上がる やり場のない苦しみが、胸を押し潰してきた。それを紛(まぎ)らわせようと、いつものように冷たい唇に顔を寄せる。
しかし唇を触れ合わせようとした直前で、今日は思いとどまった。
『こんな時は、ほら…“処女性”も大事にしないと』
“麦わら”を目覚めさせる前日。
まだ身体の関係を持つ前ではあったが、のらりくらりとそれをかわすアルコに痺れを切らし、冗談半分に押し倒した。そんな自分に謎の理屈を突きつけて拒んできたことを思い出し、ローは小さく笑った。
「『祈り』の『奇跡』……か」
ローはアルコにキスをすることを止め、あの時のアルコの様子に記憶を巡らせる。
祈祷さながらの演奏
まるで一連の儀式のようだった。
“処女性”を重んじ、髪を捧げ(前髪だけで止めさせたが)、演奏に合わせた歌は、語りのようなささやきから始まり、最終的には叫びのようになった。
決して触れることは許されない
そんな雰囲気すら漂う
神々しい その後ろ姿
ひょっとしたら あの時くらいからか
自分の中でアルコの存在が“特別”なものになっていったのは
同時に苛立ちも感じていた
決して 思い通りにならない
決して 手に入らない
普段の彼女の様子からは とても結びつかない
聖女のような姿に驚愕した
──── いや、心を乱された
そして、奪われた
“麦わら”のために奏でられた『目覚めの曲』が ローの心の中で流れ始めた。
瀕死の“麦わら”を乗せてから、毎朝 毎朝、繰り返し演奏していた あの曲。
潜水艦のホーンを通じて、クルー達や自分の目覚めの曲にもなっていった、耳馴染みのある あの曲。
いつしかクルー達が勝手に歌詞をつけて歌いだした あの曲。
たしか
サビの部分は ────
「め」
「ざ めて」