第31章 arousal
研究所
C棟 シーザーの研究室
シーザーは机に向かってピンク色の液体を調合していたが、モネが部屋に入ってきたのでその作業を一時中断した。本棚から取り出した紙の束を、モネに投げるように渡す。
「この論文をローに渡しとけ。氷漬けになった人間が“冬眠”から復帰した例だ」
「あら、“M(マスター)”…、人がいいのね」
「なわけねェだろ…! 弱みを握るには いい機会だ」
再び机に戻り、ピンク色の液体に少しずつ透明な液体を垂らす。
「それにしてはマトモな気付け薬を作っているじゃない」
「まァな…。恩を売るには、女が死んだら意味ねェだろ」
「フフフ…、死ななければ いいってことね…。ねぇ、“M(マスター)”、コレ 試してみない?」
モネは透明な筒を胸のポケットから取り出した。筒の中に光る螺旋(らせん)状の青色の蛍光色がシーザーの顔を照らした。
「シュロロロロ……、女は怖ェなァ…!」
*
ローは暖房器具をすべて撤去して、部屋にカーテンをかけた。このパンクハザードという島は入り口こそ灼熱の夏島だが、研究所のあるここは極寒の冬島さながら、吹雪が止むことはない。部屋を冷やさなくても、放っておけば室温は一桁まで下がるだろう。
黒いコートに身を包んだローは、白い息を吐きながらアルコを見下ろし、シーザーの言葉を思い出していた。
『シュロロロロ…! 女が無事 目覚めたら…、海軍本部で取ってきて欲しい情報がある。“七武海様”には容易(たやす)い御使いだろう…?』
“無事 目覚めたら” ────
なんだってやってやる
当たり前だ
ローは扉付近まで歩み、部屋の明かりを消した。暗くなった空間は一層寒く感じられた。鼻で大きく吸った冷たい空気は、ローを体内から冷やしていった。
「おやすみ…、アルコ」
ローは祈るように目を閉じて、観音開きの扉を閉めた。