第30章 in the fog 【後編】
ローは添えられていたラッピングを解いてマフィンを食べた。
「なんだ…コレ、うますぎる」
パンは苦手なハズなローが、ひと口食べて つい独り言を漏らした。
アルコが作ったのか?
いつの間に…?
『女性が“意中の男性”に手作りのお菓子をプレゼントする風習もあるんですよ』
この島に着いた直後、広場でお節介な爺さんに説明された祭りのしきたりを思い出し、ローは小さく笑った。
──── “意中の男性”
おれ達は身体を許し合う関係だが、決して決定的な“そういう”関係ではない
互いの“呪縛”によって、決定的に確かめ合うことを ためらっている
『どうか 自由に』
アルコのメモの最後の文面をみた。
アルコの信念でもある『自由主義』
時に自分を殺してでも、相手の自由を望む姿勢。その振る舞いは、嬉しくもあり、悲しくもある。しかしそんな所も似た者同士と言えた。
おれには
やらなければならないことが
命を賭してでも
果たさなければならないことが
それを差し置いて、無責任なことを口にして、アルコの心を縛るつもりもない
それでも ────
『…側にいてくれ』
『ローの側にいたいから』
アルコはいつでも おれに応えてくれる
慈愛のような優しさで
おれは お前に
何かを返してやれているだろうか