第30章 in the fog 【後編】
*
セックスの後、ローは珍しくそのままひとりで先に眠ってしまった。
『…側にいてくれ』
記憶はなくても、心と身体のダメージが蓄積されていたんだろう。
そんな弱りきった状態で求められたことが嬉しかった。
ローの身体に巻かれた包帯の緩みがないか確認してから、掛け布を整える。
『お前の想いには 応えられない』
ローは私の気持ちを受け入れる気はないけれど
大丈夫
側にさえいれば、求めてくれる
元の私達に戻っただけ
だから 大丈夫 ────
眠っているローをみつめながら、アルコは声を出さずに泣いた。
ひとしきり泣いた後、アルコはシャワーを浴びた。痛み止めが効いているうちに。
涙を洗い流し、長時間の睡眠に備えて身支度を整える。腕の傷口を慎重に拭いて、再び包帯を巻いた。
窓辺の黄色い椅子に座る。
テーブルの上には、マフィンとそれに添えたメモが置いてある。昼間自分が書いたその文字は 弾んで浮かれているようにみえて、滑稽で悲しかった。その気持ちに追い討ちをかけるように、祭りの盛り上がりが耳に届く。
一体 いつまで続くんだろう この前夜祭は
朝まで騒ぐ勢いすら感じる
アルコはそのメモに、文章を書き足した。それが終わると ベッドに入って身体を丸め、耳を塞いで目を閉じた。
『お前の想いには 応えられない』
あぁ
たぶん
起きられない
だって もう
起きたくないんだよ
深い 深い傷を癒すように
アルコは
深く 深く 眠った