第30章 in the fog 【後編】
*
「目を開けろ」
口一のその声に、アルコの身体はビクッと反応した。
お互いの腕や肩には包帯を巻いたままだが、衣類はすべて取り払われている。薄暗い部屋で裸のまま組み敷かれ、下半身は繋がったまま、口一に そう言われたアルコは身体の動きを止めた。
アルコは目を開けたが まぶたは伏せたまま、口一と目を合わすことなく再び目を閉じて それに答えた。
「…嫌」
「どうしたんだ」
「…大丈夫、どうもしないから。お願い…、続け、て」
口一はそれ以上何も言わなかった。何も聞かなかった。アルコは それが彼の“いつもの優しさ”だとわかった。
二人の間に沈黙は訪れなかった。外からの祭りの音が聞こえてくる。遠い笛の音や掛け声に混ざって多くの人達が階下にいる気配もする。
口一は小さなため息をついて、閉じたままのアルコのまぶたに優しくキスをした。それに反応して、さらにギュッと固く目をつぶる。
──── 無理
開けられない
アルコは手探りで口一の首筋に抱きついて頭を引き寄せた。鎖骨を触れ合わせあって、顔をかわす。彼の頭ごしに ようやくそろりと目を開けて、ぼんやりと暗い天井をみた。
『お前の想いには 応えられない』
『あの時』の言葉が脳内に響いた。
口一の顔が見られない。
溢れ出しそうになる涙を飲み込むと同時に、膣壁がギュッと締まる。
「痛むのか? 大丈夫か」
「大丈夫…、続け、て…、…んっ」
口一はゆっくりと腰を前後し始める。その気遣うような優しい動きが心にしみるようだった。涙の代わりに じわりとにじんだ潤滑液が下る。
アルコは動きに応えて呼吸を同調させる。耳もとに唇を寄せ、キスをしたり甘い吐息を吹き込んだりした。彼がこちらを向かないように。
『お前の想いには 応えられない』
今、口一の顔を見たら
絶対に泣き出してしまうから