第30章 in the fog 【後編】
「そこの女…。“それ”は事態を悪化させるだけだ」
「!?」
海軍の混乱の上空を飛ぶじゅうたんに乗って現れたのは、口もとをマフラーで隠した短髪で長身の男と ────
「プリン?!」
「“記憶の糸(メモリーズ フィル)”…“エクストラクト”!」
「流れモチ…!」
プリンは広げた両手のひらから糸を出した。それは薄布のように広がり、海軍の人垣は次々と気を失ったように倒れていく。
「なんだ…?」
「ロー…! 下がろう!!」
上からの薄布だけではない。地面はなぜか大きく波打ち、柔らかいモチのようなものに変化していった。
海軍に背を向けていたドフラミンゴは、その異変に気づくのが一瞬遅れた。
アルコはローの身体を支えようと駆け寄る。ローは振り返り“ROOM”をさらに広げ、次の瞬間 二人は屋敷の中に移動していた。ローは自分達を、アルコが吹っ飛ばしたラオGと入れ替えたのだった。
破壊された窓ガラスから庭を覗くと、モチの波は あっという間に海軍の人混みを越えて、ドフラミンゴとラオGを飲み込んでいた。
足を絡めとられたドフラミンゴは、空中の二人めがけて右手を振りかぶる。
「低く左へ避けろ」
「ええ、兄さん」
「超過鞭糸(オーバーヒート)…!」
ドフラミンゴの糸の鞭は、空中の二人には当たらない。まるで攻撃が先読みされているようだ。
「角モチ!」
足の自由を奪われて動けないドフラミンゴは、男からの鋭い突きを正面から喰らった。二人の男の覇気が衝突し、空気の痺れがロー達の元まで届いた。
ドフラミンゴは衝撃を受け軽く血を吐くが、倒れる程ではなかったようだ。
ドフラミンゴがその場に倒れたのは、男からの そのひと突きではなく ─── 空飛ぶじゅうたんに乗ったプリンがドフラミンゴの頭の後ろから取り出したフィルムのようなものが原因のようだった。