第30章 in the fog 【後編】
「うるせェな…、ただの痴話喧嘩だ」
ドフラミンゴは自分がトラブルを起こしている側とみられることを恐れたのか、反射的にローを投げ捨てるように離した。アルコはそれに駆け寄り、身を起こさせる。ローはようやく息が出来た、というように肩を弾ませて呼吸を始めた。
「ロー…! 大丈夫っ? ……海軍だよ、どうしよう」
「……ハァ…ハァ、ぁあ…」
アルコは前庭を包囲している海軍をざっと見た。
50人程
強そうなヤツはいない
ならば海軍に加勢しても、何の利もないんじゃないか
きっと時間稼ぎにもならない
むしろ邪魔で めんどうなだけだ
ドフラミンゴと共闘して、海軍を蹴散らす…?
いや、ドフラミンゴは“蹴散らす”なんて生ぬるいことは考えていないだろう
きっと“全滅”させるつもりだ
このトラブルが漏れないように
「面倒だな…。まァしかし…アイツらを同士討ちさせながら、お前らの相手をする事など、容易(たやす)い…」
「?!」
悲鳴や制止の声があちこちからあがる。海軍の人だかりが急に混乱に包まれた。
混乱した表情の何人かの男達が、銃や剣を振り回しているのがみえる。
操っているのは ────
ドフラミンゴはニヤついた表情で指を動かしている。
アルコは背筋がゾクリとするのを感じた。
逃げ場なんてない
この男の“糸”に捕らわれてしまったら
「わかった…、お前に従おう。…ドフラミンゴ」
「ろ、ロー…っ?! だ、だめだよ! いくらなんでも、そんな…っ」
ローはアルコの瞳を一瞬だけ見据えた。少し微笑んでいるようにもみえた。
心配するな
任せろ
『おれに 預けろ』
まるでそう言っているように
一旦は従うフリをして、混乱に乗じて逃げるのつもりなのかもしれない
傷だらけの身体をおして立ち上がるローの背中を、アルコはただ黙って見ていた。