第8章 衝動 【マリンフォード 頂上戦争】
「ローの『信念』を疑う訳じゃないんだけど」
アルコは、ずっと考えていたことを意を決して切り出す。
「何かできる仕事、とか ないかな。治療のお礼として」
「礼、か……」
とたんに悪い笑みを浮かべ、先ほどアルコをさすりあげた指を自分の顎髭にあてる。
──── あ、ヤバい
お礼の話題を切り出すタイミングとしては最悪だった。これでは女を差し出してると誤解されかねない。しかし生きるためにはそれすらも厭わないと、一度は思ったことは否定できない。
これから1年近く治療が続くらしい。厚意に甘えるだけでなく、何か返せるものはないか。
アルコは慌てて続ける。
「できれば“健全な”ヤツで!
その、ローとは……ほら! 長い付き合いになるんでしょ?」
『そういう雰囲気』を避けるように、急に明るい声を出したが、ローの妖艶な目つきに押されそうだ。
ローの歪んだ笑みには
なんというか
『色気』がある。
その事に気づいてしまった時点でアルコは、すでに押されている。
「『それ』は」
治療という恩を受けるだけでは居心地が悪いのだろうと察したローは、竪琴に目配せして意外にも“健全な”提案をした。
「『これ』…は、お礼にならないわ。
ローに…あなた達に望まれれば、いくらでも弾くんだし」
先日の歓迎の宴でも惜しみ無く竪琴を披露していたことを、ローは思い出す。
「弾きたい時に弾く。望まれれば弾く。それが楽師の『誇り』」
「────!!!」
そう言って 力強く、上品に微笑むアルコを見てローの脳裏にある光景がちらつく。
子供時代
白い町 フレバンス王国
華やかな祭りの日
王か誰かの生誕祭だっただろうか。中央広場に設置された台座に、王族の傍らで同じように微笑む、リラのような変わった楽器を携えた黒髪の女
──── アルコの 母親か