第30章 in the fog 【後編】
背丈よりも十分高い生け垣に身を潜めていたアルコは、自分の方をめがけて何かが飛んでくる気配を察した。
背負っている竪琴から大剣を抜き、その気配を払うように目の前で振るう。
「うっ…、わっ、…なに、コレ…」
(──── 糸?)
目を凝らすと虹色に輝く透明な糸が束になっているのがわかった。剣で絡(から)めとることが出来たようだ。大物を釣り上げるように両足で踏ん張るが、ズルズルと引き摺られていく。
「…アルコ!」
ローは刀に手を伸ばそうとするが、ドフラミンゴにその手を踏みつけられる。
ローは冷静さを欠いた自分を責めた。
迂闊(うかつ)だった
あの部屋から出られないようにしておくんだった
眠らせてでも
縛りあげてでも
切り刻んででも
「“シャンブル ───”」
「無駄だ」
ドフラミンゴの固い靴底がローの口もとに振り下ろされる。
自由な方の腕でガードするのが精一杯で、ローは再びうめき声をあげた。
ローへの蹴りに乗じて、糸の緊縛(きんばく)が一瞬緩んだ。アルコは最大限の覇気を込めて 剣を振りかざし、横になぎ払う。
それに気づいたドフラミンゴはローの上から降りて、素早く斬撃をかわした。
斬撃の一部は屋敷の角をパックリと割ったが、建物が崩れる程ではなかった。
ズズズ……と音をたてて軋む屋敷をみて、ドフラミンゴは一瞬驚いたような表情をしてから余裕に満ちた笑みをたたえてアルコを振り返る。
「ハッ…、なかなかやるなァ、女。“鷹の目”のところに居ただけはある」
「…ドンキホーテ・ドフラミンゴ…!」
ローは“この男”に執着してるみたいだけど、ここは一旦 離れないと
ローはすでに 重傷の手負いだ
私が時間を稼いで、逃げるスキを作る…!
しかし、それはローがアルコに対して考えていることと同じだった。ローは逃げるどころかユラリと立ちあがり、ドフラミンゴの注意を再び自分へと向ける。