第29章 in the fog 【前編】
「で、その“危険なファミリー”ってほうは? 何者なのかしら」
「それは知らない。でも…、そっちは来てないみたいだよ。アルビダさん達は『暇で仕事にならない』って言ってたって」
今朝、ローが言っていたことをアルコはプリンに話した。
「危険なファミリー…」
「怪しいよね、マフィアかな」
プリンはアゴに手をあてて、何かを考えている。その真剣な顔にアルコは今まで持っていたプリンへの印象を覆(くつがえ)された。
(彼女は…、ただのパティシエじゃない…のかな?)
「あ、焼けた」
マフィンが焼き上がったことを知らせるオーブンの音が、二人の間に流れていた どこか殺伐(さつばつ)とした雰囲気を終わらせた。
「わぁぁ~! スゴい、出来てる!」
「そりゃあ…、出来るわよ」
「美味しそう~!」
「美味しいハズよ。ひとつ食べてみましょ」
プリンは焼きたてホクホクのマフィンをひとつ取り出し、半分に割ってアルコに差し出した。
ひと口食べて、絶句した。
「な…、にコレ」
「お気に召したかしら」
感動で言葉を失った。
しっとり、ふわふわ
まだトロリと溶けているチョコレートが甘過ぎず、絶妙なアクセントになっている。目を輝かせてマフィンを見つめているアルコに、プリンはクスクスと笑って指示を出した。
「そこの焼き網の上で冷ましましょう。ベタついても、固くなっても台無しだから」
幸せな味に昇天しかけていたアルコは、我に返って大きな声で返事をした。