第29章 in the fog 【前編】
「この島の大富豪が大量の傭兵を雇ったって話…、知ってる?」
「ああ。それって もしかしてバギーの…?」
「知ってるのっ!?」
プリンは急に顔色を変えてアルコに詰め寄った。アルコはプリンの豹変ぶりに驚きつつも、彼女の迫力に圧されて話し出した。
「知ってるっていうか…、30人くらいの傭兵が、大富豪の息子のボディーガードについてるんでしょ? 確か“危険なファミリー”の女に手を出して命を狙われてるとかで…」
「で、で? その傭兵って??」
「だから“道化のバギー”のとこの人達だよ。バギーは七武海…なんだっけ」
「その七武海は、この島に来てるの?」
「いや、バギーは来てないよ。“金棒のアルビダ”って呼ばれてる女の海賊が、傭兵団を仕切ってる」
プリンは乗り出していた身体を椅子に戻し、ため息をついた。
「…なんだ、ジェルマじゃないのね」
「え、ジェルマ!?
ジェルマって…、あの『海の戦士 ソラ』の??」
「なんでもないわ」
プリンは目を伏せて紅茶を飲み始めた。アルコはその態度に不信感を抱いたが、問いただすことはしなかった。
(……? まぁ…、いいけど)
仮にも彼女は美味しいお菓子作りを指導してくれた“先生”なのだから、こちらから あまり失礼なことは言えない。
それにしても、こんなプロフェッショナルな人に手伝ってもらえたなんて
お金を払ってしてもらったこととはいえ、こんなことは自分ひとりでは到底できなかったことだ。
彼女が何かの情報を求めているなら、力になってあげたい。
アルコはお菓子作りの恩義を理由に、彼女への不信感を引っ込めた。