第29章 in the fog 【前編】
マフィンの型のひとつに、丁寧に拭いたコインを敷いた。その上から生地を流し込む。
プリンが作ってくれたチョコチップは すべてが沈んでしまわないように、混ぜ込むものと、途中で入れるものと、上から散らすものに分けて入れるよう指示された。
余熱済みのオーブンに入れ、使った調理器具を洗い終わったタイミングで、プリンは紅茶を淹れてくれた。
あの絶品の紅茶の前に、アルコはまとめていた髪をほどいて座った。
焼き上がりまで20分程度。
アルコは心配そうだが どこかワクワクした目をオーブンに向ける。
「美味しく出来てるかな…」
「きっと、大丈夫よ。あなた雑なとこあるけど、心を込めて一生懸命やってたし」
「…ははっ。そりゃ、どうも」
エプロンを外しながら照れ笑いをして、紅茶をすする。
う~ん
やっぱり、絶品…
普段はコーヒーしか飲まないアルコも、思わず唸る程に美味しい紅茶だった。
赤い液体の表面をうっとりと見つめているアルコに、プリンは声をかけた。
「ねぇ、アルコ。あなた この島のこと知ってる?」
「いや、旅人だから。よく知らない」
(…なんだ、使えないわね)
「え? なに??」
「ううん、なんでもない」
プリンは首をかしげて かわいい笑顔をみせる。
(まぁでも…、一応、聞いとくか。
このアルコという女は、きっとただの旅人ではなさそうだし。
そのための“個別教室”の仕事なんだし)
部屋の隅に立てかけられている彼女の竪琴にチラリと目を向けてから、プリンは質問を続けた。