第29章 in the fog 【前編】
「大事な“コレ”。忘れずに入れないとね」
プリンはコインを取り出し、アルコに煮沸消毒をするように指示した。
先日、アルコがローをイメージして選んだアイテム。それをお菓子の中に入れて渡すという風習だ。
そのコインには“見たことのない”文字が刻まれていた。いや、正確にはアルコは一度だけ“見たことがあるような気がする”。
歴史の本文(ポーネグリフ) ────
ミホークと旅をしていた時に、一度だけ見たことがある『それ』に刻まれていた古代文字。その雰囲気にどこか似た文字が、コインには刻まれていた。
ローも“D”の名前を持っている
無意識に選んだこのコインには、ローの背負っている“運命”となにか関係があるのかな
それに ────
『忘却』を意味するコイン
ぼこぼこと空気と湯気が沸き上がる小さな鍋の底で踊るコインをみながら、アルコは甘い記憶を探り出して浸った。
──── 私達の間に
少なくとも私にとっては
ローとの間に
“忘れたいこと”なんて ひとつもない
『大丈夫だ。お前は、傷つかない』
『きれい ─── だ』
『ハートみてェなヤツだろ。好きだな』
『預けろよ。
もっとおれに、手放しで』
『気高くて、美しくて…誇らしい。
いつも思ってる。お前の演奏には』
『いつか
おれを
フレバンスに連れていってくれ』
『あぁ、かわいいな…、アルコ………』
『ありがとう』
『きれい ─── だ』
ローと出会ってから1年以上経つ
『医者』と『患者』
ローにしか治せない“珀鉛病”を治療してくれるということで船に乗せてもらった
『男』と『女』
その後、身体の関係を持ってしまうが、それすらも“治療”のように感じていた
“心の呪縛”を解き放つための
“性欲”を満たすための
『船長(キャプテン)』と『クルー』
いくつかの島を一緒に過ごし、シャボンディ諸島でクルーの皆とは別れたが、“仲間”として受け入れてもらった
このままの“私”を
これからもローの そばにいたい
『患者』としてでなく
セックスをする間柄であるとはいえ、ひとりの『クルー』としてだけでなく
願わくば
あなたを支える 『特別な女』として