第29章 in the fog 【前編】
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3日後の朝 ────
朝食の後、買った服をローに披露した。
取り寄せた服と仕立てていた防寒着が、まとめてホテルの部屋に届いたのは昨夜のことだった。すぐにでも見せたかったのだが、昨日もローは部屋に戻ってくるのが遅かったようで アルコは先に眠ってしまい見せ損ねていた。
「ハート、入れたの。かわいい?」
アルコは自分用に仕立てた黒いロングコートを羽織って、クルリと回ってみせた。首もとと手首にファーをあしらった上品なシルエットのものだ。
胸元にはワンポイントでハートの刺繍(ししゅう)を施してもらった。ローの胸元に刻まれたタトゥー、それにアルコがいつも付けているネックレスにも似た、横長に少し歪んだハートのモチーフ。
ローはアルコのコートと、自分用に用意されたコートを見比べた。その視線は アルコの胸元のハートに向けられ、どこか恨めしげにじっとみている。
「あ、コレって ローの専売特許だった? …ダメ?」
勝手にハートを使ったことに、機嫌を悪くしたのか。しかし、アルコのその読みはハズレていた。
「…おれの、は?」
「え?」
「おれのには入ってねェのか」
「え、入れ…たいの?」
「……」
あんまり かわいらしいのは嫌がると思ったのに。
ここで笑うと、彼は拗(す)ねて要求を引っ込めてしまうと思ったので、アルコは真剣に要望を聞いた。
ローの船のシンボルやジョリーロジャーを入れて欲しいらしいので、ローのコートを預かって再び服屋に持っていくことにした。
「悪いな。気に入らない訳じゃない」
「全然 大丈夫。お金も暇も、余ってるから」
むしろ用事を頼まれた方が出かける口実が出来て都合がいい。だって今日は、午後からローに内緒でお菓子を作りにいくんだから。