第29章 in the fog 【前編】
「おお…、プリン様。お疲れ様でした。ワシでよければ、紅茶をお淹れいたしましょう」
「いえ、いいわ。私が淹れるから。
…あら、お客さん?」
「ええ。個別でのお菓子教室の希望者です」
紹介されたアルコは名を名乗って深々と礼をした。頭を下げている間、背負っている竪琴に鋭い視線を向けられている気配を一瞬だけ感じた。しかし アルコが顔をあげた時には、老人と女の子は変わらぬ笑顔だった。
「しきたりやお菓子の意味も、何もご存知ないお嬢さんのようで…」
「それじゃあ、お茶でも飲みながらお話しましょう」
「…あ、はい」
アルコは導かれるままに、店の端にある応接椅子に座った。
*
どこか面接のような雰囲気の中、ガラスのテーブルに紅茶が置かれた。いつからこの島にいるのか、どんな航路を通ってきたか、島のどこに滞在しているか、などいくつかの質問をされた。
─── ローにあげるお菓子を作りたい…だけなんだけどな
まぁでも、伝統ある店って言ってたから、大人しく従った方がいいか
もしココで作ることができれば、自分でホテルで作るよりきっと美味しいものになるだろうし
「あなた、旅人なの?」
「はい。まぁ…」
「お嬢さん…ただ者じゃなさそうじゃな」
「ひょっとして…、海賊?」
「え!? あ、いや。海賊っていうか…
ウッソ! この紅茶、美味し~…い!!」
アルコはどこまで素性を話していいのかわからず、慌ててごまかした。
ローの…、七武海の連れだって言ってもいいんだろうか
ローはこの島で普通に行動してるみたいだから、大丈夫なんだっけ
そこのところ、きちんとローに確認してなかった
治療のために数週間ホテルから出ていなかったため、この島でのローの立場も状況も何もわからなかった。しかし、自分の行動がローの妨げになってはいけない。
それに ────
この紅茶、本当に美味しいし
紅茶に感動しているアルコを見て、プリンは嬉しそうに はにかんだ。