第29章 in the fog 【前編】
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「ココ…で、本当にいいのかな?」
その店はお菓子屋さんというより、アンティークショップだった。
古びた木の扉。
その横にある大きな窓のようなショーケースには、二輪の大きさに差がありすぎる自転車が置いてある。ショーケースの隙間からは 店内の様子がチラリと見え、古びた時計や椅子が置いてあるのが うかがえた。
アルコは、手元のメモと店名を もう一度確認した。
(やっぱり、ココでいいのか…)
アルコは、重い木の扉に手をかけた。ギギッと音をたてた扉から顔を覗かせる。
「わぁ…!」
アルコは思わず感嘆の声をあげ、引き寄せられるように店内へ入った。
店内の中央のテーブルや宝箱、古びたトランクの上に、おもちゃ箱をひっくり返したような無数の雑貨が置かれている。燭台、鳥かご、銅像、古い楽器…。それらはすべて、暖かいランプの色に包まれていた。
天井からは小さなシャンデリアや電球、時計、ガラス玉、植物のオーナメント…
ごちゃごちゃとしているハズのそれらは なぜか統一感があり、店内は落ち着いた雰囲気が漂っていた。
「いらっしゃい、お嬢さん。今日はもう教室はコレでおしまいのハズじゃったが…」
フワフワのひげの隙間にパイプを咥えたおじいさんが優しい笑顔でアルコに声をかけた。燻(くゆ)らせた煙は、シルクハットのツバで左右に分かれて昇っていく。
「あの…、予約は、してないんですけど…。お祭り用のお菓子、作れるって聞いて」
老人は「おやおや」と言って、机の上の紙をめくった。アルコは そのゆったりとした動きを見ながら、ただ待っていた。
「ほうほう、コレはしかし…。いや、もうすぐ終わるから、相談してみなさい」
「…終わる? 相談??」
アルコは老人が目配せした方向を見た。店の横の四角いガラスがはめられた扉の向こうから、人の気配がした。近づいて覗くとそこは近代的なキッチンスタジオで、古めかしいアンティークショップとのギャップに驚いた。
10人には満たない程のエプロン姿の女の子達が、お菓子作りをしている。