第29章 in the fog 【前編】
「もうお菓子は準備したんですか?」
「お菓子…」
美容師は大きめのクシで髪をすきながらアルコに話しかけた。
(そういえば『男性にお菓子をプレゼントする』んだっけ)
様々な風習を欲張りに兼ね備えたフォグマリア祭。通りすがりの執事とお姫さまに教えてもらった風習のひとつをアルコは思い出した。
「男の人にお菓子を渡す…んですよね。それって、手作りじゃないとダメなんですか?」
「義理ならなんでもいいですが…『好きな』男性に渡すなら、手作りが定番ですね」
「……」
(これをバレンタインと言わずに なんと言うんだろう)
女が『好きな』男に手作りお菓子をプレゼントする
お菓子なんか作ったことないしなぁ
美味しく作れるのかなぁ
それにホテルの部屋で作るの?
水道しかないあの部屋で??
道具とかも揃えないといけないし
そもそもローにバレずに作れるだろうか
火やオーブンを使わずに…
……面倒くさいな
って、そもそも 無理じゃない?
でも
アルビダの船で無人島に寄った時
何気なく「パンケーキ食べたい」って言ったことを叶えようと、ローは鶏の卵を探したり果物を採ってきたりしてくれた
面倒くさいことをしてくれた
その気持ちが嬉しかった
『私のために』
ローが自分から何かをしてくれた、というその気持ちが
(よし…、やるか!)
気持ちを伝えるには うってつけのアイテムかもしれない
日頃の『感謝』とか治療の『お礼』とかだけじゃなくて、それ以上の気持ち
『好き』っていう気持ちを表すには
なんていうか……
スッゴく
“それっぽい”!
~* 妄想 *~
『ロー、いつもありがとう。…コレ、私の気持ち』
『アルコ…。コレ、作ったのか、おれのために?』
『そう。だって、私…あなたのことが』
『待て、アルコ…』
・・・ギュッ ・・・
『おれはお前のことが』
「むふふ……」
「あの客、なんかヤベーな…」
「シッ!」