第29章 in the fog 【前編】
ローから かなりまとまった額の金を渡された。
「え。さすがに…、こんなには いらないよ」
「ケチるな。“海賊”だろ」
よくわからない理屈だったが、冗談の中にも本気が感じられる挑戦的な目つきだ。
アルコが思い出したのは、前の島の寺院を探検している時に話題にされた『海賊になる準備と覚悟』。
どこか試されているような気がしたので、アルコは口をムウッとさせながらも 大金を受け取った。
*
ローは今日も刀を担いで出掛けていった。
ミストリア島は大きな島である上に 目的地であるパンクハザードからも近く、情報が豊富だ。しかし人の往来も多く、多すぎる情報は逆に扱いづらい。“新世界の鍵”に近づきつつあるローは、より正確で核心的な情報を求めていた。
一方アルコは 上品そうな服屋をいくつか巡り、自分とローの服を見繕って買った。
どこの店にもカラフルな服が多いのは、やはり霧の深いこの島の趣向らしい。
(私もローも、あんまり派手なのは…)
店の片隅に追いやられていた黒っぽいものを手に取る。シャボンディ諸島でローが仕立ててくれたドレスを思い出させる、上品な黒。
合わせて紺や黄色のシャツなども適当に買った。防寒着は十分なものがなかったのでいくつかは素材とデザインを選び、仕立ててもらうことにした。
かなりお金を使ったため 店からは上客とみなされたようで、購入したものをすべてホテルへ運んでくれることになった。
身軽な その足で大きな木があるロータリーを通り抜ける。カン、カン、と大きな金属音が響き、大木の飾り付けをするための足場の解体作業が始まっていた。
(ローと一緒に見たいから…お楽しみは取っておこう)
飾り付けが終わったらしい その大きな木を、アルコはあまり視界に入れないように足元だけをみて 早足で通り過ぎた。