第29章 in the fog 【前編】
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「治ったな。消えてる」
2週間後 ────
ローに そう言われて、アルコは朝日を背に久しぶりの笑顔をみせた。
その日は珍しく霧が海に流れ、朝日が街中に降り注いだ。部屋にも射し込んだ光は、窓辺の黄色い椅子をさらに明るく照らした。
ローはこの2週間、留守がちだった。
資金集めと情報収集のために、島中を忙しく飛び回っていたようだ。
アルコは一歩も外へ出ず、ほほのピリピリとした痛みに堪えながら意識的に静かに過ごした。
日中ほとんどの時間をバルコニーの椅子で過ごし、鍛練はせず、心と身体を休めた。時々、静かに竪琴を弾いた。
「どうなの? 資金集めの方は」
黄色い椅子に座っての二人での朝食。
シャボンディ諸島で滞在していたホテルの朝食ほど豪華なものではない。そのため、ローが買い置きしてくれているフルーツがメインのような朝食だ。
「目処はたってきた。船を買えるだけの金は、だいたい貯まってる。買う船も…造船所で、あたりをつけてある」
「そうなんだ。私にも、何か出来ることあるかな」
「いや…。そうだな。アルコは今回は仕事はしなくていいから、必要なものを買い揃えてくれ」
そういえば、服がない。
漂流した時に着ていた片袖の服だけ。
毎日出掛けているローはさすがに数着買ったようだが、アルコはホテルの部屋着でやり過ごしていた。
「とりあえず おれが買ってくるか」
ローはアルコが着ているホテルの部屋着をチラリとみてそう提案した。
「大丈夫。1着はあるから。出掛けられるよ」
ローは「そうか」と言ってアルコが切り分けたリンゴを食べ始めた。
(あ、しまった。ローが私にどんな服買ってきてくれるか…、興味あったかも)
アルコもリンゴに手を伸ばしながら、自分の返事に少しだけ後悔した。しかし これ以上、ローに世話になりっぱなしなのも気が引けた。
「目的地のパンクハザードは…、今はかなり気候が激しいようだ。暑さと、寒さが」
「暑さと…、寒さが?」
ムチャクチャな話だが、ローがそう言うんだからそうなんだろう。
ローは自分の防寒着も適当に揃えておいてくれというので、アルコはそれを了解した。