第29章 in the fog 【前編】
その後 ────
治療の前に、私達は一度だけセックスをした。
私は触れられる前から、もうすっかり濡れていた。口一は私のソコに触れて「こっちもずいぶん泣き虫だな」と、いやらしい皮肉を言った。私はそれに反論せず、泣き腫らした目を伏せて微笑んだ。
いつからだろう
こんなに涙を流せるようになったのは
いつからだろう
こんなにすぐ濡れるようになったのは
全部、あなたの前でだけだよ
それから私達の間に会話は ほとんどなく、前戯もほどほどに私は口一を受け入れた。
いつものように
肌を重ねて
肉をぶつけ合う
繋がったまま引っ張り起こされて、座って向き合う体位のまま抱きあった。
外は濃い霧
太陽も霞んでいるが まだ十分に明るい時間
近い距離でお互いの顔がハッキリみえて恥ずかしいので、視線をあちこちにやるが、彼のほうからキスをねだってきたので それに応える。
繋がりながら
抱きすくめられながら
深いキスをしながら
ただ
触りあって
慈しみあって
寄り添っているだけ
それだけでこんなにも幸福感と安心感が、とめどなく わき上がってくる。
“言葉”なんかで伝えなくても ────
「なんだよ」
何か言いたげな顔をしてしまっていたのだろうか。キスを止めて乱れた髪を整えるように触れられる。口一は私の瞳を覗きこんで、そう問いかけてきた。
あぁ
今、なんか “それっぽい”
でも ────
「…すごく、……『イイ』」
「あぁ…、『イイ』な」
動かさずとも びくびくと呼応していたナカを、口一は緩くかき回し始める。私は後ろ手をついて身体を反らし、甘い声を出して応えた。
『好き』って言おうか すごく迷ったけど、やっぱり言うのをやめた。
だって口一の返事を聞いたら
もしも口一も『好きだ』って言い返してくれたなら
私は絶対に、いつまでも ひとりで思い出しては笑ったり泣いたりするだろう
顔のアザは
やっぱりできれば消えて欲しいから