第29章 in the fog 【前編】
「これを 治療する」
ローはベッドに座っているアルコに歩み寄り、ほほに触れた。
いつしか顔に現れた“珀鉛病の白いアザ”
今はアルビダから分けてもらった化粧品を使って、隠すようなメイクをしている。
お金と一緒に荷物も失って漂着してから、しばらくは その顔のアザを隠す方法がなかった。そのことに気づいてから ─── アルコは自分自身に未だに染み着いて取れない“弱さ”に気づかされたようだった。
その“顔のアザ”を治療する、とローは言う。
アルコはローのその提案に思わず身構えた。
アルコの自己防衛反応の強い体質は、珀鉛に対してだけでなく、治療の刺激に対しても働く。そのため治療の後は安静にしていなければ、正常な色素細胞にも過剰な攻撃をしてしまうらしい。それに気づかずに、以前 治療の直後にセックスをした時 ─── その時の腰のアザは消えずに残ったままだった。
ローは安心させるように、ゆっくりとした口調で言った。
「動かさなければ、大丈夫だ」
「…うん」
「治療の後は しばらくは、泣いたり笑ったりするなよ。…そんなにビビらなくても、大人しくしてればアザは残らない」
アルコは“弱い自分”を振り払おうと、ひとつ手を叩いてから不自然な程に明るい声を出した。
「そっか! じゃあ今のうちにいっぱい笑っとかないと。ロー、何か笑わせてよ」
「……」
無茶言うな、という様子で眉間にシワを寄せたローは、帽子を脱いでそれをベッドの上に放った。
「ローの その困った顔。かわいい。笑える」
冗談を続けて、ニッコリ笑う。ローはさらにあきれてプイッと背を向けた。
「おれの顔が笑えるなら、おれは治療が終わったら、…数日でかける」
「えー。そんなぁ! じゃあ泣いちゃう。泣くのもダメなんでしょ?」
「…いい加減にしろ」
あはは、とベッドの上で足を揺らして笑うアルコに、ローは覆い被さった。