第29章 in the fog 【前編】
二人はアルビダから分けてもらった宝を換金し、拠点とする宿を探した。
賭博で稼いだ金とあわせて100万ベリーには満たない程になったが、小型船を買うとなると無駄遣いする訳にもいかない。
神輿(みこし)の通り道にある宿は、ワンランク価格が上がっていることに気づいたアルコは、大通りから少し離れた宿にしようと提案した。
「見なくていいのか、“ふんどしの男達”は」
「別にいいよ。それに見たければ祭りが始まったら通りまで出ればいいじゃない」
そんなことより、景色が開けている方がいい。この霧では、あまり絶景は望めそうにないが、少しでも高いところから街を見下ろしたい。出来るだけ たくさんのものが見えた方が、変化もあって飽きないだろうから。
だって きっと治療をするんだから、しばらく部屋で大人しくしていないといけないんだろうから。
大通りから離れ、ずいぶん坂を登ったところにある宿に決めた。
シンプルな部屋にベッドが2つ。
一番に目に留まったのは、奥のテーブルに添えられた2つの椅子。
その色は、潜水艦を思い出させる原色の黄色だった。アルコはスルリとその椅子に触れながら窓の外に目を向ける。
広めのバルコニーには、木製の机とデッキチェアが1つだけ置かれていた。木のフレームにアイボリーの布が張られた簡易の折り畳み椅子からは、霧の街並みを一望できる。
(外に出られるのは、嬉しいな)
霧に沈む街並みのカラフルな屋根を見渡す。
この場所も十分に高いが、さらに高い丘の上には緑色の屋根の豪邸がみえた。
(あれが、アルビダさん達の依頼主の…)
そう話題にしようかと思ったが、アルコよりも先にローが口を開いた。「治療するぞ」と言うので、アルコはベッドに座った。