第29章 in the fog 【前編】
「もうすぐフォグマリア祭ですからね」
「フォグ…」
「マリア?」
眼鏡をかけた老人が、整えられた口ひげを動かしながらローとアルコにそう言った。
執事の格好のその男性は、傍らにお姫さまのような女性を連れている。彼女の観光に付き合っているようで、その知識をロー達にも披露し始めた。
「この島を司(つかさど)る霧の女神の祭りですよ。この木に電飾なんかの飾りつけをして、短冊に願い事を書いてぶらさげるんです。神輿(みこし)も出るし、この辺りはかなり賑わうらしいですよ」
「木を飾って、短冊に神輿…。なんか欲張りな お祭りだなぁ…」
「で、子供の枕元にプレゼントが置かれるのか」
「クリスマスと一緒にするな!!」
通りすがりの町民らしき男が、ローの言葉を訂正しろとばかりに大きな声でツッコんできた。
「ビックリした…」
「…? なんなんだ」
「島民には、フォグマリア祭に対する謎のプライドがあるみたいですからねぇ…。余計なことを言ってはいけません」
執事の男は、「ふぉっふぉっふぉ」と優しく笑って解説を続けた。
「神輿をかくのは島の若い男達です。霧の女神を讃えるために、ふんどし姿で街中を走り回るんですよ」
「あらま。健康的な女神さまだね」
先ほどローに大声をあげた男性が、再び鋭い勢いでこちらを振り向いたので、アルコは慌てて口に手をあてた。