第28章 甘いもの
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船は風を受けて順調に進んでいた。
ローとアルコのこの船での定位置は甲板後方。2頭のヤギが繋がれた向かいあたりにいつも二人はいる。
アルコは海をみたり、ヤギを撫でたり、竪琴を弾いたり。水を使わせてもらう時以外はだいたいこの場所にいて、ここで二人は食事をしたり眠ったりもしていた。
5日程が経った ある日の午後
アルコはヤギ達にエサをやっていた。
この船の料理長が時々持ってくるバケツには、野菜の皮やヘタ、残飯が入っている。アルコは、最初こそ料理長がエサをやっているのを近くでみていただけだったが「やってみたい」と言うと、料理長は優しい笑顔でヤギと同じようなひげを揺らしながら「『ユキちゃん』と『アキちゃん』に均等にやってくれ」と、エサのやり方を教えてくれた。
次のエサやり時から、料理長はバケツをアルコの傍らに置いていくようになり、ヤギ達のエサやりはアルコの仕事になった。
(どっちが『ユキちゃん』でどっちが『アキちゃん』だろう…?)
いつもエサをやりながら考えるが、どうしても2頭の見分けがつかない。仮に「こっちが『ユキちゃん』」と教えてもらっても、その後すぐにどっちがどっちか見失ってしまいそうだ。それくらい、2頭のヤギは真っ白で区別できる部分がなく、顔も大きさも同じにみえた。
「まぁ…、いいか。二人とも、いっぱい食べてね」
1頭を撫でると「メェ」と短く鳴いた。
(! 鳴き声…。声なら聞き分けられるかも)
曲がりなりにも自分は楽師だ。そう考えたアルコは、もう1頭の頭も撫でたが、そちらは鳴いてくれなかった。
そう簡単にはいかないか
そういえば…、モージが「『ユキちゃん』の方は特別なヤギ」って言ってたような…
何が特別なんだろう?
聞いてみようかとあたりを見渡すが、声の届く距離にはローしかいない。
キョロキョロとあたりを見渡したアルコに反応したローが歩み寄ってきて「オイ」と言いながら海の向こうに目配せしてくる。
「あ…! 島だ」