第28章 甘いもの
「こっちは かわいいね」
アルコがヤギのほほの短くて白い毛を撫でながら言うと、モージがなぜか誇らしげに語りだした。
「このヤギは かわいいだけじゃないんだぜ…?」
「食肉用だろ」
「トラファルガー・ロー…、噂に違(たが)わず極悪非道なヤツだな…」
モージはローに警戒の眼差しを向けているが、ローはまったく気にしていないようだ。
「ミルクが採れるとか?」
「そうとも! それに加えてこの『ユキちゃん』の方は、世にも特別なヤギで…」
モージによるヤギの解説は、甲板中央の開けた場所からあがった大きな歓声によって遮られた。
「丁か半か、丁か半か!」
「丁」
「丁だな!」
「半!」
「半ないか、さぁ張った張った!」
サイコロを使った賭博が始まったらしい。博打場を仕切っているのは、男ばかりのこの船をも仕切る“金棒のアルビダ”。誰もが認める美女は服の片袖を脱ぎ、セクシーな格好で伏せられたツボに煽りを向けている。
高まっていく熱気にローとアルコも吸い寄せられるように歩み寄った。
あっという間に この船のほとんどのクルー達も集まってきた。
「賭けろ」
ローがアルコの後ろからつぶやく。
「でも…、元手がないじゃない。私達、一文無しで…」
「嬢ちゃん! 貸してやろうか」
アルビダの隣に座っているパンパンに筋肉が張った大男が、開けた賭場を越えてアルコに声をかけた。貸元らしい。
「どうせ高いんでしょ、金利」
「まぁな。カラス金※だ」
「嫌だよ。負けたらどうすんの。話にならない」
乗り気ではないアルコの後ろで、ローは真剣に賭場を観察している。
「勝てばいいだろ」
「ロー…、本気?」
「金は必要だ」
「ハッハッハッ! 兄ちゃんの言う通り。よし! 最初の1回だけ、無利子で貸してやる」
膝をついたまま歩み寄ってきた大男に、1回分の掛け金を無理矢理 握らされた。アルコはローに不信な目を向けるが、ローはニヤリと笑って「やれ」と言ってくる。
「早くしな、締め切るよ」
アルビダまでニヤリとした顔で見上げてくるので、アルコは渋々「丁」に賭けた。
(※カラス金…カラスが鳴くまでに返さなければならない金。返せなければ日に日に利子が膨らむ)