第27章 価値観
アルコが島を振り返るとユナが近づいてきた。大きな紺色の袴の裾が風に揺れて、足元がふらついている。
アルコは彼女の手を取りに行った。手が触れ合った瞬間、彼女の瞳の不安の色がなくなった。
「ありがとう…ございました」
「こちらこそ。本当にありがとう。…また、会えるといいね」
「…はい」
「……」
なんだか 少し気まずい
もう行ったほうがいいのかな
でも…
「ローには…、挨拶する?」
「あ、いや…、あ、…はい…」
歯切れの悪い返事に少し呆れるが、放って置けないかわいさがある彼女の手を引いて、ローの元へ連れていった。
「治療…、ありがとうございました」
「ああ」
「……」
え、そんだけ? いいの??
アルコは二人を残して先に船に乗っていようかとも思うのだが、まるで「行かないで」とでも言うようにユナが手を強く握りしめてくるのでその場から動けない。
(まあ…、初恋ってのは実らないものか)
それ以上言葉を発しようとしないユナをアルコは優しく抱きしめた。彼女のことを、こんな風に抱きしめるのは何度目だろうか。それももうおしまいかと思うとアルコは名残惜しく、寂しい気持ちになった。目頭がムズムズして涙がこみ上げる予感がするが、“大人の女”としてのプライドでそれを押し返す。
「元気でね。いっぱい恋して、いい女になってね」
彼女は赤くなって、小さな高い声で「はい」と言った。
アルコは彼女の耳もとに唇を寄せて、言葉を送った。
自分にとっても、大切な言葉を。
「──── どうか 自由に」
耳の近くのほほに軽くキスをすると、彼女は突然、その性格には似合わない程の大きな声をあげた。
「─── はいっ!!」