第27章 価値観
*
日暮れ前
ユナは家の外に出て、父親の帰りを待っていた。父親の“魂”を感じるために、瞳孔を開く。感覚を研ぎ澄まして辺りを見渡すと、父親のものとは別の“特別な魂”の気配が近づいてくることを感じた。
ユナは驚いてその場に両膝をつき、胸元で手を合わせた。
島民が行き交う中、ユナだけは 姿が見える前に“その魂”を感じ取った。周囲にいた人々はユナのその様子を見て、誰が近づいて来るかを察し、同様に膝をついて祈った。
「おおぉ…、大僧正様」
「なんとも輝かしい…」
「神々しい…」
後光が差す大僧正に対して、人々の口から感嘆の声が漏れた。
ユナも手を合わせたまま、静かに目を閉じた。“その魂”を凝視しないように ────
「ユナよ…、父と母を助けたいか」
僧兄を伴った大僧正はユナの前まで歩み寄り、物々しい雰囲気でそう語りかけた。
「はい…。覚悟は出来ています。大僧正様」
「ではコレを。あの若者に」
懐(ふところ)から取り出した、液体の入った小瓶を、彼女に渡した。
「…っ!!!? そんなっ…?! 私はまだ…」
「よいのだ。ユナよ、そなたは“特別”じゃ。“儀式”は、後でよい」
「…………」
“特別”
それは喜ぶべきことなのか。悲しむべきことなのか。ユナにはわからなかった。
“普通”だったら、母のように生きれたのだろうか
“特別”だったら ──── アルコのように生きれるのだろうか
ユナがアルコのことを想ったことを悟られたように、僧兄が大僧正に進言した。
「大僧正様、女が邪魔では? 」
「女にも薬を使え」
「…………」
「ユナ、お前の“宝”を捧げるのだぞ」
「………わかりました」
ユナの覚悟に満ちた返事を聞いて、大僧正達は踵を返し、人々が膝をついて出来た道を戻っていった。
「ユナの力は、“本物”じゃ…。
しかしそれも“宝”である今のうちだけの話であろう。
その“宝”をあの男が奪ったとなれば…、この島には もはやあの男の居場所はない」