第27章 価値観
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「ユナ、お父さんは? 帰ってきてないの?」
「ええ…。大僧正様の所へ…、朝から寺院へ祈祷に行きました」
「そういえば、遅いわね。いつもなら…」
ユナの母も心配そうな顔をみせた。
アルコは、ローが不在の間にテントを抜け出してユナの家を訪れた。
アルコには、どうしても気になっていることがあったのだ。
『僧正よ…、何を捧ぐ』
『………ユナを。
納得済みです。それで…皆が助かるのならば』
そんなことがあっていいハズがない。
そんなバカなことが。
アルコはユナの手を両手で包み、よく見えない彼女のために至近距離に顔を寄せた。
「ねぇ。自分を大切にしなきゃ、ダメだよ。この島の事情はわからないけど…、ローは必要だと思ったら、絶対ちゃんと治療してくれるよ。
…ユナが何かを犠牲にしなくても」
「…この島には、この島の『価値観』があるんです。アルコさん…、あなたはわたしの『価値』を否定するんですか…?」
「違う。ユナの『価値』とローの『治療』は関係ない」
「関係あります。…それが大僧正様のお導きならば」
怒りが湧いた。
どうしてあんなジジィを慕ってるんだろう。それがこの島の『価値観』だからか。
彼女の頬をはたいてやろうかと思った。それでこの娘の目が覚めるなら。
でも、ユナの目に宿っているのは
信仰
意思
信念
それを暴力でねじ伏せることなんて、きっとできない。
「アルコさん…。もうユナを放っておいてやってください。貴女の言いたいことはわかったから」
見兼ねたユナの母が、相変わらず諦めたような表情を向けてくる。それに耐えきれなくなったのはユナの方で、彼女はアルコの手をほどき、クルリと後ろを向いてしまった。
「ローは…、ユナのお父さんもお母さんも助けるよ。それだけの力と信念を持った人だよ」
アルコはユナの背中にそれだけ言って、家を後にした。彼女が背を向けて、泣いているかどうかはアルコにはわからなかった。