第27章 価値観
「大僧正様! お願い申し上げます」
開けた回廊に出た。祭壇らしきものがある中央が下がっているので、二人は回廊の入り口から空間の全景を見渡すことができた。廊下に伏せて顔を少しあげ、目だけ覗かせている。
回廊には、アルコの履いている袴と同じ朱色の旗に紋章が描かれた布が全面に吊り下げられている。
中央の祭壇を囲むように円形に配置された灯籠には火が灯(とも)され、中央には坊主頭の小柄な老人が鎮座していた。
((アイツが『大僧正様』だな))
ローとアルコは確認し合わなくてもわかった。肩の尖った四角い赤色の法衣を着ているその老人は、豪華な祭壇を向いていてこちらから顔は見えない。その傍らには、ロー達を投獄した髭の長い『僧兄』の姿もあった。
「土病だけでも、どうか…。
あの若者を頼れば、48名の島民が救われます。…うち6名は“宝”です」
(“宝”………?)
大僧正と僧兄に向かって祈るように懇願するのは、松明を持ったユナの父だった。彼も紺色の法衣に身を包んでいる。
「僧弟よ…。得体の知れない島外の男を頼るというのか。バカバカしい。あり得ないことを言っておるのが、自分でもわかるだろう」
ローが治すことができる破傷風のことを言っているのだろう。ユナの父は、自分の妻だけでなく、島民達のためにバカ正直に大僧正に許可を得ようとしているようだ。
ローをチラリとみると、彼も真剣にそのやり取りの行く末を見守っていた。
「僧正よ…」
大僧正が振り返った。
その老人は髪は無いが眉はみっしりと太く、その目には精力的なエネルギーが感じられた。
「何を捧ぐ」
そう問われたユナの父は、長い沈黙の後、重い口を開いた。
「………ユナを」
「バカな! ユナは本物の“宝”ぞ?! 失うにはまだ早い」
僧兄が声を荒げたが、ユナの父の決意は揺らぐことがないようだ。
「納得済みです。それで…皆が助かるのならば」
「くだらねェな」
そうつぶやくローの顔は、静かな怒りが宿っていた。その言葉は「興味ねェな」と同義語のハズなのに、まるで反対の意味が含まれていることをアルコは感じていた。
そんなローのことを頼もしく思ったアルコは、彼の背中を押した。
「やっちゃおうよ。ローは関係なくないよ」