第27章 価値観
「失礼する」
ちょうどローは刀の手入れを終えたらしい。刀身を鞘に納めてベッドの脇に置いた頃、ユナの父がやってきた。
法衣を脱いだ彼は、ますます普通の優しいお父さんにみえた。
カラフルな紐を編んで作った丸い座布団に ローと向かい合って座り、袋から小瓶や香箱のような小さなものをいくつも取り出して広げた。
薬だ。
『大僧正様の施し』
ローが頼んで集めてこさせたようだった。
ユナの父は、それぞれの薬とそれを施された状況を話し始めた。ローは時折首をかしげながら、真剣な顔で薬の匂いを嗅いだり少し舐めたりしている。
アルコは二人にお茶を入れた。ローに腕の布を外されてしまったので左腕を隠すようにしながら、右手でお茶を配った。とくに気にされる様子もなく 二人は話を続けているので、アルコは竪琴の調律作業に戻った。
「私はこの機会を待っていたのかもしれない。島外の“医療”を持つ者がこの島を訪れることを」
「あまり あてにするな」
すっかり親身になっていたと思ったローが距離を取り、突き放すような言い方をしたので、ユナの父は自分を戒めるように表情を固くした。
「そうだな…。君の問題ではない。この島の問題だ。
私もまだ準備や覚悟はできていなかったが…、しかし そうも言っていられない。
今、君がこの島に流れ着いたのも“神”の思し召しだろう」
「“神”ねェ…」
「“くだらねェ”とでも言うか」
法衣を脱いだことで、この島の信仰や“神”を嘲(あざけ)るような話題に抵抗が薄れたのか。
それとも、島民には決して さらけ出せない、何か積もり積もったような想いがあるのか。
ずいぶん“島外の無礼な若者”に理解を示すような言い方だった。
「…この島の“宝”を知っているか?」
ローの瞳が揺らぎ、鋭さを隠しきれていない。ユナの父はそれに気づかないフリをするように続けた。
「君なら言えるんだろうな…実に“くだらないもの”だ、と」
まるで そう言って欲しいみたいだ、とアルコは傍らで聞いていて思った。竪琴を静かに置く。