第27章 価値観
「診せろ」
「すまない」
彼女の言い分を無視した二人の男は、女性をベッドに誘導し、足をみせるように促した。アルコとユナはその場から心配そうな目を向けていた。
「破傷風か…」
土に含まれる菌が傷口から侵入する感染症。死に至る場合もあるが、早期に清潔な環境で適切な治療を施せば、ここまで酷くはならない。
「これが…大僧正様の“施し”だ」
差し出された容器を開けると、白いクリームが入っていた。ローは少量手に取り匂いを嗅ぐ。
(抗生剤のようだが…体内の毒素には効かないハズだ)
ローは女性の腫れ上がった足首に触れた。ビクリとした女性は顔を覆っていた手を恐る恐るどけた。その表情は今にも泣き出しそうだ。
「おれの能力で治すことはできる。菌と毒素を完全に取り除ける。
お前達に恩もある。
…しかし、本人が望まないのならば、無理に治療することはできない」
ローのその言葉を聞いて、女性は泣き崩れた。ユナは母親に駆け寄り、その身体を支えた。
「いくぞ」とアルコに言って出ていこうとするローを、僧正は呼び止めた。
「少し…、時間をくれないか」
「ああ」
「私は…、この島には医療が必要だと考えている。そのために私は僧正になったのだ」
女性の嗚咽が響く揺らいだ空間を、男の決意に満ちた声が整えた。
「…“余計なことはしない”。コイツがヘンなジジィとそう約束してしまった」
ローがアルコを見るので、アルコは目を丸くしてイタズラに笑った。
「そうだっけ? …でも誓ってないよ」
「…そうだったな」
『…その言葉、大僧正様に誓うか』
『いいえ。それは出来ません』
三人はそのやり取りを思い出し、静かに笑った目を合わせた。
「ユナ」
「はい」
「彼らを客人の間へ」
「はい」