第27章 価値観
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「君、出身は」
「北の海(ノースブルー)だ」
男は、二人を家に招き入れた。
円柱形の白い布張りの家は、木の扉や床板も張られていて、けっして簡易の造りではなかった。中に入ってみると思ったより天井は高く、無数の赤茶色の木材が中央の円に向かって集まっている。中央の円は少し高く、開閉式なのか日が入ってくる。降り注ぐ穏やかな日光が、ぐるりと周囲に張られた色鮮やかな布を 間接照明のように照らしていた。
僧正であるユナの父は、ローに興味深く質問を続けている。おもに医療に関することのようだった。
傍らに座る妻らしき人物は、少し困った顔で、夫をみつめている。彼女はやつれているようで、あまり健康的にはみえなかった。
ユナがお碗(わん)を配った。温かく香ばしい香りがした。アルコは両手で丁寧にお碗を持ってすすった。お茶のようだが、妙に酸っぱい 飲んだことのない味だった。
男達の会話の邪魔にならないようなタイミングで、アルコはユナに「ありがとう」と言った。彼女は はにかむ様子で少しだけ笑って、座布団が空いているのに座らずその場に立っていた。
「誰の何を診て欲しいんだ」
なかなかハッキリと要求を切り出さない男に向かって、ローはしびれを切らした様子で言った。
「………」
「…」
ユナと彼女の母は、神妙な顔でうつむいた。まるでそれを口にすること自体が“禁忌(タブー)”であるかのように。
「…妻の、足を」
「あなたっ!!」
男を咎めるような声をあげて、妻である女性は立ち上がった。
「私はいいんです…、私は…『僧正の妻』ともあろう者が、『大僧正様』の“教え”に逆らい医療を受けるなんてことが…、あっていいハズがありません…」
「くだらねェ“教え”だ」
「!!」
『この島に医療は必要ない。すべては大僧正様の施しによって解決する』
もうひとりの年寄りの僧正が言っていたことを思い出し、ローは不快感を表した。『くだらねェ』という言葉を聞いた女性とユナは、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。