第27章 価値観
「この島に医療は必要ない。すべては『大僧正様』の施しによって解決する」
僧正のその理屈に、ローはあからさまに嫌そうな顔を向ける。しかしこの状況を抜け出すために、邪魔をするつもりはない。ローは反論せず口をつぐんだまま視線を落とした。
「では、余計なことは致しません。この島には偶然漂着してしまっただけで…、体制が整えば出来るだけ早く出航します」
「……その言葉、『大僧正様』に誓うか」
ローとバギーは、少し心配そうにアルコをみた。
アルコはゆっくりと目を閉じてから、何か決意した様子で僧正をまっすぐ見据える。
「いいえ、それは出来ません」
微笑みながらそう言うアルコに対して、若い兵達は怪訝(けげん)な表情でどよめきをあげた。
「愚かな女だ。ならそのままでいるがいい」
「…私達は、この島の信仰を知りません。『大僧正様』なるお方が、どのような方かまったく存じ上げない。
無知な者の口先だけの誓いを、貴方がたは信じるのですか?」
「………ぐっ…」
「…僧兄(そうけい)様!」
僧正と同じような四角い法衣に身を包んだ男が、横から声をあげた。穏やかそうなその男性は、檻の中の三人を見澄ましてから静かに話し始めた。
「彼女の“魂”は悪いものではないようです。解放してもよいと、私は思います」
僧兄と呼ばれた初老の僧正は渋い顔をしているが、いつの間にか集まってきた島民達は表れた男に尊敬と同意の眼差しを向けている。
この男が『ユナの父』で『若い方のもうひとりの僧正』のようだ。
周囲の雰囲気に圧されて、初老の僧正はついに根負けする。
「お前の責任ぞ…、僧弟(そうてい)」
「はい」
僧弟と呼ばれた男は、丁寧に頭を下げた。
閂の錠が外され、檻が開かれる。アルコとローは檻の外に出ることを許された。