第26章 漂流
時折頭から波をかぶるので、目に溜まっている涙はすぐに流れるが、代わりに顔中 海水でぐしゃぐしゃになる。
駆けめぐる思考、想い出、大切な言葉を追想しては、現実に戻る。
そんなことを繰り返しながら泳いでいたので、アルコはすぐにはそれに気づかなかった。
水平線に近く、傾きかけた太陽が、その島のシルエットを浮かびあがらせるまで。
「ロー、島だよ!!! 島がみえたッッ!」
アルコは振り返り、背中のローに伝えるが、返事はない。
「ロー! 大丈夫?! もうすぐだよ!!」
「…………ぅ……」
え…、大丈夫かな
なんか……ずいぶん ぐったりしてる気がする
でも、今はこれ以上どうにもできないし、とにかくたどり着いてからだ
かろうじて返事があったことを確認したら、再び泳ぎ始める。泳げるスピードが心なしか上がった気がした。
日が沈む前に
あの島に人は住んでいるのだろうか
島の目印となる灯りはつくのだろうか
今夜は月は何時に出るんだっけ
絶っっ対に 見失う訳にはいかない
*
目標が定まったアルコは、ただ無心で泳いだ。
なかなか島は、見た目の大きさを変えない。
島までの距離が近づいた実感がないまま、日は完全に落ちた。
宵闇の中、再び不安と絶望に支配されそうな心が、背中側から登ってきた満月によって照らされた。
月明かりで再び浮かびあがった島のシルエット。
アルコは再び涙を流す。
ありがとう、みんな
ありがとう、“神様”
ローを生かしてくれて
アルコは島についてからの想定を始めた。
上陸できる海岸はあるだろうか
人はいるのだろうか
休める場所はあるのだろうか
ここで体力を使い果たしては いけない。上陸して、ローの具合をみて、必要な処置をして、安全な場所で無事休ませるまでが『彼の命を預かるということ』。
アルコは再び長期戦を覚悟し、泳ぐスピードを緩めて月明かりに照らされた島に向かって泳ぎ続けた。