第25章 high sensitivity
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巨体魚との闘いは、夕刻まで続いた。
お互いの体力の削りあい。ロープを緩めては、力が緩んだスキに巻き上げる。ついにその巨体が姿をみせた。
「カジキじゃっ!」
ドリルのように鋭い鼻先。
紡錘形で銀色の魚体。
黒々とした左右対称のヒレは美しさと凶暴さを感じさせた。
「じいさんっ!!」
「ああ。ありがとう、アイビー」
アイビーはシルバーに巨大な銛(もり)を引きずって渡した。
姿が見えれば、コントロール可能。
水面下を8の字に暴れまわるカジキの胴体に、シルバーは鋭い ひと突きをくれた。
カジキは最後の力を振り絞るように、いきなり水上に跳ね上がる。
魚体をくねらせて飛びあがったその姿は、絵画のように美しく、禍禍(まがまが)しかった。青銀色の胴体に、鮮赤色の血しぶきが飛び散る。
シルバーは その光る魚体めがけて、もう一度銛を打ち込んだ。
ビチリ、と不規則に跳ねたカジキの、皿のような目玉に、銛が突き刺さる。
海中に落下したカジキは ぶるぶると痙攣し、そのまま動かなくなった。
海上には沈黙が訪れる。
一時の沈黙を破ったのは、歓喜の声をあげたアイビーと“ジブラ”だった。
「スッゲェー! 本当にスゲェ!! やっぱりじいさんは、世界一の漁師なんだ!」
「まだじゃ、アイビー。コイツは持って帰るのにも一苦労じゃぞ」
「クェッ! クェッ!!」
「わかっとる、わかっとる」
はしゃぐアイビーと“ジブラ”を制するようなことを言うシルバーだが、その顔は満足感に溢れ、まんざらでもないような表情をしている。
目玉を貫いたことで、血抜きの手間が省けた。
海はカジキの血によって、赤黒く染まっていく。
硬直したまま動かなくなった魚体を、シルバーはロープで手繰り寄せた。
アイビーは興奮気味に船から身を乗り出し、赤い海から引き上げられる巨大な魚体を見ていた。
重たそうなそれは、水面から出ると浮力を失い さらに重量を増した。
苦痛の表情で頭から引き上げようとするシルバーを手伝おうと尾の方に手を伸ばした時 ────
「“ヨゴレ”じゃ ────!!!」