第24章 老人と船
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50年前
シルバーは妻と二人で漁をして、慎ましく暮らしていた。
子宝には恵まれなかった。
妻はその事で自分を責めたが、シルバーは優しく寄り添った。
二人は幸せだった。
シルバーは島でも優秀な漁師として知られていた。
本人はハッキリとは語らないのでわからないが、彼に漁の教えを乞おうと彼と一緒に船に乗った者は、口々にこう言った。
「彼は、海の生き物達の声が聞ける」
船に並走する2頭のイルカを兄弟と呼び、トビウオ達に鳥の群れの場所を聞く。
気高く、何者にも従わないとされる海王類ですら、彼の友人のようにみえた。
ある嵐の夜
生き物達が騒ぐので、シルバーは妻の制止を聞かず海岸へ向かった。
そこにはゼブラ柄の海王類の子供が打ち上げられていた。
子供とはいえ、海王類。
クジラほどの大きさのあるその生き物は、イモリのような短い足を動かしていたが、自力では海に戻れないようだった。
シルバーは嵐の中、船着き場から海岸まで船を回してきて、海王類のしっぽにロープを繋ぎ、海へ返そうと試みた。
しかし、その海王類の子供は抵抗した。
「死にたいのかっ!!? 海へ戻らんか!!」
「クェー、ク…、クェッ!!」
海王類の子供は、その短い手に何かを抱えていた。
シルバーは海王類が抱える木箱のようなそれをのぞきこんだ。
中には人間の赤ん坊が身を丸くしていた。