第24章 老人と船
「私は、先に戻るね。食事の支度してくる」
「ああ、頼む」
「キミの分も。一応、作っておくからね」
「…うん、ありがとう」
日が傾き始める前、アルコは船の手入れにキリをつけて先にシルバーの家に戻っていった。
ローは つぎはぎの帆を外し、マストの金具やロープを付け替えてから新しく買ってきた布の形を整えて帆を張った。
船の“機能”としてはいいような気がする
問題は ────
「どうして『死んでいる』んだと思う?」
少年が口を開いた。
遠くでパタンと扉の閉まる音がした。
アルコが家に入っていったのだろう。
風も波もない。
潮の匂いは海面付近のみに低く重く漂い、ローの嗅覚に届くまで立ちこめてはこない。
二人きりになった船着き場は、静けさと寂しさが支配していた。
アルコがいたときも、三人ともほとんど口を開かなかったというのに。
彼女がいないだけで、こんなにも場が変化するものなのか。
ローは改めてアルコの存在の大きさを思った。
船を修理しながら、ずっと考えていた。
“なぜ、この船は『死んでいる』のか”
ローは、自分なりの答えを口にした。
「『疑われた』『恨まれた』そして……『忘れられた』」
「そう。
…ローには やっぱりわかるんだね。今も『恨み続けている』ローには」
「そんなことも、わかるのか」
「わかるよ」
少年の緑色の瞳は静かな海面に向けられた。その波のない青緑の海は、傾き始める太陽の光を受けて、少年の虹彩のようだった。