第24章 老人と船
「ねぇ、キミ…名前は?」
海辺の道を歩きながらアルコは少年に尋ねた。
まさか、言い淀まれるとは思わずに。
「それが………よく、わからないんだ」
───── え?
自分の名前が、わからない??
アルコは戸惑った。
広場で『お母さん』って言ってた人がいたし、家族がいるのに、
自分の名前が、わからない??
アルコは答えを求めてローを見た。しかし、ローも何か答えを頭の中で探しているように、黙ったまま首をひねって目をそらした。
「わかることは よくわかるんだけど、わからないことは、全然わからない。
…ぼくは、一体なんなのかな」
決して歩みは止めずに不安そうにする少年の肩に優しく手を置いて、アルコは笑顔を向ける。
「どんなことが、“よくわかる”の?」
少年は、アルコから出た言葉が哀(あわ)れみからくるものでなかったことに少し驚いてから、ニヤッと笑った。
天使っぽさとは程遠い そのイタズラな笑顔に、アルコはドキリとする。
「例えば、アルコがキレイでかわいくて、いい人ってこととか」
「え」
「なんだ、このガキ」
ローがとっさに悪態をついたが、アルコは嬉しそうに笑った。
「やだも~。素直でかわいい子っ!」
少年の背中をバッシンと叩くと、少年は「うっ」と小さくうめいて前のめりによろけた。
「アルコ、お前…加減しろよ。子供だぞ」
「うるさいな」
建物も少なくなり、さらに寂しくなっていった海辺の道に、ローとアルコ、名前のわからない少年の楽しげな声が響いた。