第20章 宝物
ペンギンは取引の一部始終をクローゼットの中に身を潜めて見ていた。
結局取引は成立しそうで成立せず、すべての回線は閉じられた。
シーザーの傍らでは、デスクに座った女が ガリガリと何かをノートに記している。
「いまいちだな……。
派手さも、感染力も大したことねェ。
やっぱり“炎”より“毒”だな…!!
『仲買人(ブローカー)』との繋がりができただけでもよしとするか…
“SAD”のための資金源は他にもある…」
シーザーはガスを漂わせながら、部屋から出ていく。その身体は気体でできていて、実体がないように揺らいでみえた。
「おい、モネ」
モネと呼ばれた冷たい目をした女は、その呼びかけにノートを閉じた。
「そこに潜んでるネズミ1匹、消しとけよ」
ペンギンはクローゼットの中で、ビクリと身体を固めた。
「了解、M(マスター)」
部屋からガスの気配が一瞬で消えた。
ギイィィィィィ…………
スリットの入ったクローゼットの扉が開けられる。
バサッと臨戦体勢で出てきたペンギンだったが、女の姿は無い。
しまった、どこに ────
ペンギンの首筋を冷たい空気がかすめる。
「うふふ…。どこの男かしら」
振り向いたペンギンの口に冷たい唇が重なった。
「?!」
女の長い舌で、喉の奥まで何か冷たいものが押し込まれる。腕で振り払ったが、素早く離れた女にはかすりもしなかった。
女は涼しい顔でデスクまで歩み去り、ピンク色のジュラルミンケースをのフタを閉めた。
むせながら膝をつくペンギンに冷たい目を向ける。
「……熱い?」
「ぐっ?! …………がはっ、がっ……、はっ……、ぐがぁっ!!」
ペッと吐き出されたのは、ピンク色のキャンディ。
じゅうたんの上でジュワジュワと泡立っている。