第15章 in the rain
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翌日
アルコは大雨の中、巨大な十字架の墓標の前に立っていた。
昨晩から降り続いている雨は、朝になると さらに激しくなった。
昨晩、ミホークはどしゃ降りの外を見て「明日は農作業をするな」と二人に言ったので、今日はとくに予定はない。
毎朝の日課となっている墓参りに時間をかけようと決めて、いつもよりさらに遠回りした。
ヒヒ達と一戦交えたので、すでに足下は泥だらけ。左肩に刺し傷も負ってしまった。
(湿気も ここまでくると気持ちいいかも)
大雨のシャワーを浴びるように両手を下に伸ばし、顔をあげる。
泥と血と汗が、降り注ぐ雨に混ざるのを感じる。
ザ ────────
ザワザワ
ビタタ、ビタビタ
ダ ────
タン、タタン
目を閉じて、天からの水が作り出す様々な種類の音に耳を澄ます。
同時に、自分の心にも耳を傾ける。
『脱ぎたいな』
『潜水艦に、帰りたいな』
クライガナ島に来て一週間ほど経った。
ココは今、自由にグローブを取れない場所。
ミホークに寂しい思いをさせないでくれた、ゾロとペローナには感謝しているが、ここはもう『自分の家』ではない。
ルフィの船に乗っていた時のようだ。
楽しくて、ワクワクすることや学べることもあるんだけど、心は自由ではない。常に周りに気を配り、気を許すことはない。
ローに無理矢理 暴かれた時のことを思い出す。
初めて潜水艦に乗船した時と、初めて彼とセックスをした時。どちらも半ば強引に、アルコの白いアザをさらされた。
『大丈夫だ。お前は、傷つかない』
その言葉通り彼の言動や態度は、結果的にアルコを傷つけるものではなかった。
“医者だから”
はたして 本当に それだけなんだろうか。
なぜ彼は、こんなにも珀鉛病にこだわり、理解をみせるんだろうか。
ベポ、シャチ、ペンギン。
彼らも 何も言わない。
ロー達に気を許してしまってからは、他のクルー達の前でもひょっとしたらうっかり肌をさらす場面があったかもしれない。
クルー達は医療に精通する者も多く、『患者』の気持ちがわかっているからだろうか。じろじろ見たり、酷いことを言ったりはもちろんない。言及されたことすら一度もない。
あの潜水艦は、自分が自分でいられる場所。そんな気がした。