第13章 表と裏
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どちらともなく飲み終わり、ふたりは店を出た。同意を得る会話もないままに、目についた水上コテージに入る。
海に向かって伸びる板張りの桟橋。点々と置かれた足元のライトは海を照らし、その部分だけ幻想的な緑色に浮かびあがった。
左右に狭い橋が伸びていて、各小屋は一棟ずつ離れた構造になっている。あてがわれた小屋へ行き着くまでに誰かの派手な喘ぎ声を耳にするが、ふたりは無言でそこを通りすぎた。
部屋に入ると、アルコはシャワーを先に浴びていいか聞きながら、薄布を留めている装飾を外そうとする。
口一はその手をつかんでやめさせた。
「別に………ヤらなくてもいい。
お前とは…もっと話をしなきゃならねェと思ってる」
「!!!
──── ありがとう。嬉しいよ」
アルコはつかまれた手で口一のほほを なでた。
「何て言うか……お前は、素直すぎるよな。裏が無さすぎて悩んでんのがバカらしくなる」
「え、悩んでるの? 大丈夫??」
「……そういうとこだよ」
「口一が裏がありすぎるんじゃない?」
挑発的な顔で笑う。
お馴染みの、口一の悪顔の真似。
焦げ茶色の床や天井で囲まれた薄暗い部屋。
黄色みがかった照明の下、アイボリーのベッドに座っている口一に歩み寄り、膝の間に立って向かい合う。頭を両手で優しくはさみ、上からキスを降らせた。
「口一は、このままの私を受け入れてくれたから。
私は、どんな口一も受け入れたい。
ただ、それだけのこと」
「─── !!」
アルコのその言葉と笑顔に、口一は思わず眉を寄せた。苦しさにも似た胸の痛みで、とたんに息が しにくくなる。
どんな境遇であっても、どんな見た目であっても、自分を受け入れてくれた、かつての『恩人』の言動が彼女の笑顔に重なった。
見返りを求めず
悪意がないからこそ
傷つくこともあった
『恩人』の『自由すぎる』言動
『無責任』なまでの『優しさ』