第13章 表と裏
とくに何も言わず、何の感情も顔に出さない いつもの様子で、ローは戻ってきた。
先ほどまでキラキラと素敵に見えていた水面の輝きが、なぜかうるさく、うっとうしく見えた。
「いいの? 据え膳じゃない」
そう言い終わる前に、ペンギンがアルコの後頭部をパシッと はたいた。
「いいのっ……て。お前は ──」
「関係ないよ、ねぇ」
「関係ない……ことは ないだろ」
静かにそう言うローに、ペンギンはハラハラする。
(そう言えば、この2人がケンカしたら誰が止めるんだ。おれには、無理だ)
「ローがそうしたいなら、すればいい」
トドメのようなことを言うアルコに、ペンギンは白目がちになる。
時が止まったような沈黙の後、ローは黙って潜水艦内に入っていった。
「………………え、怒った?」
「そりゃ、怒るよ」
アルコは、先ほどからずっと何か考えているような顔を解かないまま。あっけらかんとした言い方は、あえて作為的なものに聞こえる。
「なんで。自由でしょ。
私は『自由主義者』なの」
「アルコ、それでいいの……?」
「………」
ほぼ死んでいると思っていたベポまでもが、心配そうに口を出してきた。
アルコは返事の代わりに、足元で だれているベポにアイスを押しつけた。ベポの頭の近くでサンダルを脱ぎ、桟橋の縁のギリギリのところに立つ。
パチンッと叩いた両手を左右に広げ、
「ジャンッバアール!!!」
大声で叫び、服のままドッボンと海へ飛び込んで行った。
船体を磨いていたジャンバールが迷惑そうに しぶきを払いのけ、クルー達の笑い声が響く。
(逃げたな)
珍しいこともあるもんだ、とペンギンは思った。
アルコは、感謝や謝罪だけでなく、なんでも思ったことを素直に口にする。謙遜や遠慮とは無縁の女だと思っていた。
それとも本当に色恋に対しても『自由主義』なんだろうか。
──── 長引かないといいけど
何かを振り払うようにジャンバールに絡み始めるアルコを上から見て、ペンギンは息を吐いた。