第11章 プライド
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怒りに任せてズカズカとあてもなく歩く。
そのうち裏路地に入り込んだのか、『街はここまで』というように道の先は石畳の道路の舗装が途切れていた。先には小高い丘がみえる。
小さな店がふと目に留まった。
通りに沿って隙間なく建ち並ぶレンガ造りの住居の1階部分に、チョコレートのような形と色の扉がはめ込まれている。扉を押すと、正面に6つのカウンター席、左右にテーブル席がひとつずつしかない小さなバーだった。
まだ夕方前の早い時間ということもあり、客は誰もいない。
「いらっしゃい」と来店を促す、痩せたバーテンダーの男の機械的な冷たい声がかかる。
客に対して無駄な干渉をしてくることのなさそうな男のその言い方に安心し、吸い寄せられるようにカウンターに座った。
ウィスキーのロックをゴクゴクと飲み、片肘をついてうなだれる。
(………………ムカつく)
さっきまで、あんなに晴れ晴れとした気持ちだったことが嘘みたいだった。
キスされたことは、嫌じゃなかった。そんな自分に、さらにムカついた。
アルコはうつむき、大きなため息をついた。
彼は何を見ていたんだろう
誰にあてつけていたんだろう
決して、自分を見ていた訳ではない。唇を重ねながらも見てもらえていない。自分は一瞬酔いしれたというのに、相手の心には自分が微塵も存在していないかのような態度。女としての『プライド』が、ぴしりと音をたててヒビ入った。
いや、ヒビどころですんでいるのだろうか。
ローは自分にキスをしたくてしたのではない。
恋心とか色情とか、そういう動機ではない。
──── 女は所詮、男の『道具』
モヤモヤとした気持ちをどう鎮めればいいのか。
ウィスキーをもう一杯注文しようかと顔を上げると、バーテンダーが先に口を開いた。感情を込めない機械的な「いらっしゃい」の直後、隣の席に大きな何かが座った。
逆立てた赤い髪
尖った格好
───── この男、確か
「飲もうぜ」